農業者の思いが形になった栄村直売所『かたくり』はオープンから3ヵ月。出荷登録者が増え、売上も伸びている。だが小林高行店長は「まだまだ産物が少ない。もっともっと楽しんで下さい」と出荷に訪れる農業者に笑顔で声をかける。7月オープン後、初の夏休み、お盆連休、9月のシルバー連休を乗り切った。生産者は毎朝新鮮野菜を店頭に並べ、毎日2回の『売上メール』を見て売行きを知る。売れ筋をみて翌朝店頭へ。この繰り返しだが「楽しいね。これも売れるんだ、あれも売れるんだとね。ここに来るのが楽しみだよ」。70代の生産者は笑顔で話す。
国道117号道の駅「信越さかえ」。津南町との県境の橋・宮野原橋を渡り左手に雰囲気ある木造が並ぶ。その中央に『かたくり』がある。
毎朝8時過ぎに続々と軽トラックや軽ワゴンが店の前にやって来る。
箕作の高橋康文さん(78)は「チンゲンサイ」10袋を持ってきた。「百姓は初めてだよ。でももう20年かな。ここに来るのが楽しみだ。みんながどんな野菜を出しているかとね」。奈良県出身の高橋さん。20年前に妻の出身地、栄村に移住。農業初任者だったが近所から学び、いまでは20種余の野菜を作る。「ほら、昨日の売上だよ」。携帯電話の着歴メールを見せてくれた。そこには4桁の数字が並ぶ。
「自分たちが作った野菜を、自分たちで売りたいね」。農業者の思いが実り直売所が実現した『かたくり』。出荷者で組合を作り運営。7月のスタート時は60人余の会員が現在は90人近い。無休で店を開ける。売場担当は交代制で受け持つ。直売所を切り盛りするのが小林店長。「朝誰よりも早く、夜は誰よりも遅く、日中は各所に出かけ、生産者を回っています。店長は開店以来休んでいませんよ」。直売所のスタッフの言葉だ。
土日は混み合い、最近は月火曜も入る。道の駅という休憩スポットと共に直売所の雰囲気が客足を集める。季節感を出したPOP(ポップ)広告が効果的だ。目を引くデザイン文字と商品のデッサン絵、さらに誰でもできそうな料理レシピを添える。野菜はカゴやザルなどに入れる。群馬からの夫婦は、「この広告絵がいいねぇ。今晩はこれを作ってみようかなぁと思わせるね」と、五宝木だいこんを求めていた。
自家野菜農家だけでなく、本格生産者も出荷する。「シーズンが過ぎたので持ってきた。規格外品でも売れるのでありがたいね」。齋藤君江さん(71)は出荷用キュウリ20袋を店に並べた。「これはちょっとまがっているからね」というが、スラリを揃った6本のキュウリが袋に入り2百円だ。
出荷を楽しんでいるのは震災復興支援員2年目の越智勇気さん(28)。「皆さんが作らないもの、皆さんの刺激になるものをと、ささやかですが作っている」。この日は世界一辛い『ジョロキア』と一般的な赤トウガラシ。あのカバネロより辛いという。「バナナピーマン」も出品。越智さんは九州大大学院を休学し栄村に来た。来年4月復学する。「少しでも役に立てればと思います」。
これから冬。課題は提供できる商品の確保。だが、小林店長はすでに動いている。「栄村は武蔵村山市と交流する。あの御嶽山の大滝村の防災関係者とは以前から交流している。こうしたつながりを役立てたい」。単に村外の産物を並べるのではない。「なぜ武蔵村山のお茶がここにあるのか、なぜ大滝村の物がここにあるのか、ここです」。すでに冬場のイメージが描き、準備に動いている。
野菜出荷に直売所に来る農業者の笑顔が、この『かたくり』の存在意義を物語っている。
(恩田昌美)